昨今の音声アプリには目を見張るものがあります。特に、スマートフォンでの「通訳アプリ」にはびっくりしました。日本語の音声でインプットすると、的確な英語の音声が返って来ます。かつて私の友人が、「いずれ機械が通訳する時代が来るので外国語なんて勉強する必要はない」と言っておりましたが、実際に現実となっております。

でも、少し冷静にご判断をしてみませんか?現在私たちが享受しておりますこのような革新は、つまり「IT」の進化の結果であります。つまり、”Information Technology” です。このITの進化は生身の人間のコミュニケーションに重きを置いた訳でもなく、あくまで「事務的(Businesslike)」という観点の上で進化を遂げて来たと言う点であります。例えば、インプットする側がこの「事務的」という観念の上に立たなければ、的確なアウトプットを得れなかったという現実があった訳です。つまり、インプットする側は姿勢を正した普段使わないような標準語でインプトすることに対して、無機質な普段使わないような標準語が返ってくるという仕組みです。(a standard to a standard または、造語ですが、”Robot talk” 「無機質な機械的話し方」- 昔みんながマネした宇宙人の話し方(別に声を震わせる必要はないのですが、何故が「我~々は~」みたいな言い方ですよね。)、しかしながら、今は方言対応の開発も進んでいるようですがね、でも、これはこれで、あくま方言対応であって、個々の人間の個性に合わせたソフトとは言えません。

1968年に上映された「2001年宇宙の旅」で人工頭脳コンピューター(AI)のHALが、無感情な(expressionless) 無表情な(emotionless)話言葉で人間に問い掛けてくる場面を思い出します(これ、最もシンプル英語表現でした、例えば、昔の日本の電報表現のような、「チチシス、スグ、カエレ」みたいな)。私たちはいつの日からこの音声データを受け入れていたのか解りませんが、個人的には、ダイヤル117(時報電話)だったように思えます(ピ、ピ、ピ、ピー、ただ今○○時○○分○○秒をお知らせ致します)。また、携帯電話の留守電サービスというものもありました(今もあります)が、「お掛けになった番号は、現在電波の届かない場所にいるか、電源を切っている状況です。」という定番のメッセージよりも、「ごめんなさいね、後ですぐ折り返ししますので」のご当人のメッセージが返って来る方が有難い訳で、あの時のHALの声はその後の人間社会の中でもここら辺を無視してに氾濫して来た訳です。つまり、私たちが過去経験した新幹線ホームのアナウンスなど、正にそのものでした。「○○時○○分発○○行きひかり○○号が到着致します。」の○○は貼り付け音声で、当時はとてもアナログ感のあるデジタル音声でありました。

その後、このような一方的な「事務的」アナウンスに私たちは慣れ親しんでしまったのかも知れません。今日のネット社会に蔓延する音声ガイダンスが典型的なものです。私たちが問題解決のために何とか回答を得ようとしても、中々、対処出来る生の人間まで行き着かない、ような状況に腹立たしい経験をされた方は少なくないでしょう。

文字社会や数的表現のみで互いのコミュニケーションが確立可能な場合(例えば、自販機の世界等)を除いて、また、人間社会における「事務的」対応(寧ろ、「社会的責任上の常識ある礼節をもった対応」と言うべきでしょう。これは一般社会と捉えて)以外には、人間と人間のコミュニケーションにITやAIの介在の必要性はないとの考えであります。相手が生身の人間あれば、コミュニケーションの不備の顛末には必ず互いの感情のもつれが生じます。そして、それらの是正や補正も人間の感情によってのみ可能な訳で、決して「事務的」AIの対応では解決を導くことは出来ないと考える訳です。仮に、AIにそこまでの機能を携えることが可能であれば話は別ですが・・・それは、また造語ですが、正に「HCT」(Human Communication Technology) であります。

そこで冒頭に戻りますが、現状の「通訳アプリ」が如何に画期的であっても、あくまでツールでしかなく、状況や感情や言葉のキビを表現できるシロモノではないということであります。仮に、言語の異なる夫婦の激しい夫婦喧嘩(こんなことはあまりあり得ないと思いますが、時に相手に通じない母国語で罵り合う場合)で「通訳アプリ」を使うと・・・さあ、どうなるでしょうかね? 「あんた、一体、何てこと言ってんのよ、バッカじゃないの!」を”What the hell you are saying, God damn shit! fuck up!” とは訳してはくれない、と思いますがね、もしこの言葉を声を荒がえることもなく、Robot talkで冷静に言われた時には、こりゃ、堪りませんけどね。